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このままではまずい。
陽気な酒飲みは嫌いではないが、陰気なのは苦手だ。
この手のタイプは愚痴や説教を垂れて、つかまったら最後、中々逃げる事ができないのだ。リーザは助けを求めるように、シャインの右隣にいるホ-プの方へ視線を向けた。
「すー、すー」
「あらあら。おじいちゃんったら。最近、お酒を飲んだらすぐ寝ちゃうのよね」
エミリアがくすくす笑いながら、ホープの寝顔を眺めている。
ホープは酒瓶を右手で握りしめながら、机の上に頭を載せて熟睡していた。
――だ、だめだ。
ホープ船匠は役に立たない!
リーザは肩をすくめ溜息を吐いた。
けれど勘違いしたシャインは、空になったリーザのグラスにシシリー酒を注いで、彼女に同情するように深くうなずいた。
「ジャーヴィス副長は19時が門限なんです。時と場合によりますが、概ね彼は、自分の一日のスケジュールが決まっていて、それで行動する人なんです。俺には彼のような芸当は全くできませんから、すごいなーって思うわけです」
シャインは苦笑しながら、小皿に載った海老を取り上げ、香ばしい小麦粉の皮をくるくると巻いた。
リーザは再び椅子に腰を降ろしていた。すっかり忘れていたが、ジャ-ヴィスとの食事のことがまざまざと脳裏に蘇ってきたのだ。
「そう。彼、士官学校の時からそうだったわ。何があっても必ず19時には帰ってしまうの」
「何故ですか?」
海老を巻いた皮をつまみ、シャインが口の中に放り込む。
料理が気に入ったのか、彼は新たに帆立貝を小皿にとって、香草と一緒に再び小麦粉の皮を巻き付けている。
「何故って。そんなの知らないわよ」
リーザはげっそりしたように、グラスの酒を一口飲んだ。
「子供の頃からの習慣じゃないの?」
それを聞いたシャインは小さく笑い声をたてた。
「ジャーヴィス副長の家は躾が厳しかったんでしょうね。だけど、やっぱり……」
「やっぱりって?」
シャインは口が滑ったといわんばかりに肩をすくめた。
「いえ。門限があっても、女性を一人店に残すのはいただけないなと。せめて家まで送っていくのが紳士としての義務でしょう」
シャインはそっと席を立った。
酒のせいか、いつも白い頬が赤味を帯びて血色がいい。
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