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「言葉を交わすのは今日が初めてだが、君の事は知っている。この二ヶ月ずっと、君に首席の座を奪われたからな」
リーザはやや大仰に握手をした手を振った。
そしてさっきみせた恥じらいを吹き飛ばすように、にんまりと笑みを浮かべて言った。
「あらー、私ったら”提督”にライバル視されてたのね。うふふ、光栄だわ」
「……やめてくれ、その言い方は」
私は握手した手を放し、額に思わず手を当てた。
「どうして? みんなあなたのこと、そう呼んでるわよ」
なんの疑問も持たず言うリーザを、私は恨めしく思った。
だからって、そう呼んでいいなど言ってない。
思わず顔をしかめた私を見て、リーザは小さくうなずき微笑んだ。
「ごめんなさい。でも、私はいいと思うわ。だってあなたは、一年間ずっと95期生のトップだったのよ? これってやっぱりすごいことじゃない?」
私は何と答えようか迷っていた。
いい成績をとりたくて勉強しているわけではない。パンケーキをとにかく食べたくないがために勉強しているのだ。
「私の名はジャーヴィスだ。あだ名で呼び合う程、私達は親しくないと思うが」
「……」
リーザの夕日のような瞳が一瞬大きく見開かれた。
そしてそれが徐々に細められ、彼女はついにうつむいた。
傷つけてしまっただろうか? 私はふと不安になった。いくら初対面とはいえ、私の言葉は率直すぎた。
「………ジャーヴィス、あなたってホントおもしろいわ」
「えっ?」
私の心配をよそにリーザは顔をあげると、さも可笑しそうに声を立てて笑った。両手に持った箱を取り落としそうになるほどの勢いで。
「確かにそうよね。私が悪かったわ。だから、これを機に仲良くして下さる?」
「……」
私はまたも返事ができず、戸惑った。顔が上気してきて、なんだかとても気恥ずかしかった。
「私でよければ……別に構わないが……マリエステルさん」
「リーザでいいわ。もうお友達なんだから。でも、あなたの事はどう呼んだらいいかしら」
私はリーザに苗字で呼んでもらうように言った。
姉や妹以外の女性から名で呼ばれるのは、免疫がないせいか受け付けそうにない。
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