番外編【1】ティーカップとパンケーキ

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「言葉を交わすのは今日が初めてだが、君の事は知っている。この二ヶ月ずっと、君に首席の座を奪われたからな」  リーザはやや大仰に握手をした手を振った。  そしてさっきみせた恥じらいを吹き飛ばすように、にんまりと笑みを浮かべて言った。 「あらー、私ったら”提督”にライバル視されてたのね。うふふ、光栄だわ」 「……やめてくれ、その言い方は」  私は握手した手を放し、額に思わず手を当てた。 「どうして? みんなあなたのこと、そう呼んでるわよ」  なんの疑問も持たず言うリーザを、私は恨めしく思った。  だからって、そう呼んでいいなど言ってない。  思わず顔をしかめた私を見て、リーザは小さくうなずき微笑んだ。 「ごめんなさい。でも、私はいいと思うわ。だってあなたは、一年間ずっと95期生のトップだったのよ? これってやっぱりすごいことじゃない?」    私は何と答えようか迷っていた。  いい成績をとりたくて勉強しているわけではない。パンケーキをとにかく食べたくないがために勉強しているのだ。 「私の名はジャーヴィスだ。あだ名で呼び合う程、私達は親しくないと思うが」 「……」  リーザの夕日のような瞳が一瞬大きく見開かれた。  そしてそれが徐々に細められ、彼女はついにうつむいた。  傷つけてしまっただろうか? 私はふと不安になった。いくら初対面とはいえ、私の言葉は率直すぎた。 「………ジャーヴィス、あなたってホントおもしろいわ」 「えっ?」  私の心配をよそにリーザは顔をあげると、さも可笑しそうに声を立てて笑った。両手に持った箱を取り落としそうになるほどの勢いで。 「確かにそうよね。私が悪かったわ。だから、これを機に仲良くして下さる?」 「……」  私はまたも返事ができず、戸惑った。顔が上気してきて、なんだかとても気恥ずかしかった。 「私でよければ……別に構わないが……マリエステルさん」 「リーザでいいわ。もうお友達なんだから。でも、あなたの事はどう呼んだらいいかしら」  私はリーザに苗字で呼んでもらうように言った。  姉や妹以外の女性から名で呼ばれるのは、免疫がないせいか受け付けそうにない。
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