第二話

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「すごく、上手です……」 「そう? 嬉しいな」  中学の時は、あえて同世代の人の作品を見ないようにしていた。  蘭と春人先輩の絵は物凄く新鮮で、私にはないものが、いっぱい詰まっている。  羨ましい。  私も、あんな風に風景が描けたら。 「真彩は何を描くの?」  蘭がにこりとこちらを振り向いた。 「えっと、私は、ダンサーの絵……」  相変わらず。と付け足すと、二人は嬉しそうに笑った。 「真彩が一番好きなものだものね」 「うん。こないだテレビでバレエのコンクールが放送されてて、ずっと見ちゃった」  陸名くんを見てから、バレエに関する関心はより高まった。  今まではプロの舞台写真ばかりを参考にしていたけど、陸名くんのように学生のダンサーにも目を向けるようになった。  過去にダンサーの絵を描いていくつか賞をもらったけど、なんだか今は、そんな絵よりも、もっと上手に描ける気がする。 「真彩ちゃんは、人間を描くのがすごく上手いよね。まるで動き出しそうだ」  下書きのスケッチを見て、春人先輩が言った。 「ええ、ほんとうに。特にバレエの絵は昔から最高。陸名くんが人生変えられるのも納得だわ」  蘭はうっとりと目を輝かせている。  そういえば、陸名くんが『人生変えられた』理由も、蘭は『なんとなくわかるわ』って言ってたなあ。  自分の絵をちゃんと見てくれる人がいるのは、本当にありがたい。 「でも私、蘭や春人先輩みたいに、綺麗な風景は描けないです……」  本音を漏らすと、春人先輩は驚いたように目を丸くする。 「僕だって真彩ちゃんほど上手に人間は描けないよ。みんな得意不得意がある。それが個性だし、絵の良いところだよね」  にっこりと春人先輩が笑うと、そばにいた蘭もこくりと頷いた。  そうだ。絵の素敵なところは、描いた人の個性が、ありありと表現されること。  私は私の好きなことを表現すればいいんだよね。 「その通りですね……!」  だから私は、絵が大好きなんだ。 「そうだ。職員室が閉まる前に、展示の申請用紙をだしてくるね」  春人先輩が思い出したように、机の上にあった用紙をペラリとさらう。 「あ、ありがとうございます」 「部長ですから」  にこりと笑って春人先輩が言う。 「でもそのまえに、絵を完成させないと、展示もできないし、同好会落ちだからね!」  美術室をでていく間際の春人先輩の掛け声。  私たちはヒヤッとして、慌てて自分のキャンバスに再び向き合った。
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