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反射的に入り口を見ると、何人かの女子生徒が美術室をのぞいている。
「こんにちは。あれ? 新入生かな」
春人先輩が穏やかに声をかけると、ひそひそと内緒話をしてから、一人の女の子が前に出た。
「陸名くんがこの辺で練習してるって聞いたんですけど……見てませんか?」
その子は私と蘭をじろりと見下ろして言った。
その視線は鋭く、あまり気持ちのいいものではない。
「陸名くん、ダンス部に入ってないから、色んなところ探してるんですう」
取り巻きの女の子が言う。
「陸名くんなら、見ていないわよ。ね、真彩」
蘭が涼しい声で返事をしたので、私も無言で頷いた。
すると女子生徒たちがまたひそひそと話し始める。
「へえ……。『真彩』ってもしかして、水口真彩?」
なんで私の名前を。
その口調はとても攻撃的で、からだがすくむ。
「だったら何か?」
蘭が私をかばうようにして一歩前に出た。
「その名前、陸名くんのインタビューに載ってた」
私の、名前が?
「どうして陸名くんがあなたのこと知ってるの? ただの高校生のくせに。もしかして付き合ってるの?」
ひたすら早口でまくしたてながら、その子は私の方に近づいてくる。
怖い。
鉛筆を持つ手から力が抜けていく。
「ねえ、これ、陸名くんじゃないの!?」
スケッチブックが、バサッと乱暴に取り上げられる。
「あっ……ちょっと……!」
返して。
取り返そうと思わず立ち上がったけど、スケッチブックはすでに他の女の子達に回されていた。
「なにこれ、なんでこんなに描いてるわけ」
「どんだけ陸名くんのこと好きなの?」
くすくすと笑い声の混じった会話が、こちらまで聞こえる。
明らかな悪意が、こちらに向けられている。
指先が冷たくなって、全身の力が抜けていく。
「てか、こんなのみられたら恥ずかしくない?」
「あんたたち……ッ」
蘭が激しく怒鳴ろうとした瞬間、女子たちがしんと静まり返った。
「……これ——おれ?」
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