第一話

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「陸名くん……!?」  きゃあと小さい悲鳴があがった。  女の子たちが反射的に陸名くんから距離を置いたので、その姿が美術室の入り口にはっきりと見えた。  栗色の短い髪に、すらりとした立ち姿は、見間違えるはずがない。  いつのまにか彼は片手に私のスケッチブックを持っている。 「水口が、描いたの?」  彼の大きな目がこちらを見据えた。  心臓が跳ねる。  気持ち悪がられるかもしれない。引かれるかもしれない。  でも、私は、この絵を描きたかったんだ。  その気持ちに嘘をつくことはできない。 「……うん」  その場は静寂につつまれた。  陸名くんは俯いたまま、じっとスケッチをみている。  誰もが彼の反応を待っていた。  どくんどくんと心臓が大きく脈打って、飛び出てしまいそうだ。  なにか、言って。ぎゅっと目をつぶった。 「嬉しい……」  小さな声がぽつりとその場に響いた。  ——『嬉しい』?  聞き間違いかと思った。  けど、周りの女の子たちが再び騒ぎ始めたので、そうでもないらしいことを知る。 「こんな、勝手に自分の絵描かれて、いいの!? 気持ち悪いじゃん!」  女子の一人がまくしたてた。 「……あんた、誰だよ」  さっきの小さな声とは裏腹に、低い嫌悪を含んだ声がした。 「おれの人生変えたひとが、おれの絵描いてんだぞ。気持ち悪いわけないだろ」 「……っ!」  みるみるうちに女の子の顔が赤くなっていって、周りの女子たちも恥ずかしそうに顔を伏せた。 「もういいよ、いこ!」 「そうだよ。ほんとありえない」  小さく悪態をつく声は、彼女たちの足音に紛れて消えていった。
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