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春人先輩の提案で、五月の第一週にあたる五日間、私たちは美術室前の廊下に絵を展示することになった。
部員を増やすべく、私たちは展示用の絵を一人三枚用意するため、毎日美術室に集まっている。
締め切りまでは、あと一週間と数日。
「一枚目、できたわ……!」
「蘭、早い! みせてみせて」
蘭のキャンバスを覗き込むと、油絵の作品があった。
とても洗練された、校門の絵だ。
それはこの高校の門のようだったが、爽やかというよりも、ダークな雰囲気を纏っている。
周りの木々も枯れ果てて、春というよりも冬の雰囲気で描かれている。
それは背筋がゾッとするような不気味さだ。
「校門、廃墟バージョンよ」
「は、廃墟バーション……?」
完成した絵を見に、後ろから春人先輩も近づいてきて、はは、と笑った。
「蘭が描く絵のスタイルは変わらないね。僕たちが中学にいたときから、ずっとこんな感じなんだ」
「こんな感じ……?」
首を傾げていると、蘭が照れたようにはにかんだ。
「わたし、見た風景をなんでもダークに変換して描いちゃうの」
蘭はさらりと言うが、それは頭の中のイメージが、ものすごく鮮明にあるってことだ。
そして想像したイメージを絵にする能力も非常に高い。
「すごい、蘭……」
その精巧な表現力に、思わず吐息が漏れた。
「あらやだ。ありがと、真彩」
にこりと笑う蘭の笑顔は相変わらず美しい。
後ろでじっとその絵を見ていた春人先輩が、するりと蘭の横に顔を出した。
「蘭。光が右側から当たっているなら、ここはもう少し暗くてもいいんじゃない?」
蘭、と呼びかけた春人先輩に一瞬どきりとした。
そうか、この二人は幼馴染だった。
「あぁ、そうですわね。じゃあ、この葉は逆にもう少し明るくしないと」
「そうだね、いい感じ」
なんだか、大人っぽいなあ。
パレットを片手に絵について会話をする二人は、すごくかっこいい。
そのうえ美男美女だから、見ていてとても幸せな気分になる。
「春人さんは何を描いてるんですか?」
蘭が聞くと、春人先輩は自分のキャンバスの方へと戻って、私たちを手招きする。
その絵を覗き込むと、そこには穏やかな春の情景が描かれていた。
「春人先輩は水彩なんですね……!」
全体の色彩は淡いが、きちんと陰影がつけられているので、ぼやけがちな水彩の絵が引き締まって見える。
「昔から油絵が下手くそでさ。水彩の方が合ってるみたいなんだ」
春人先輩がメガネをくいと持ち上げて、へへ、と笑う。
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