第二話

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○  締め切りが一週間後に迫った昼休み。  お弁当を美術室に持ち込んだ蘭と私は、キャンバスをにらみながら昼ご飯を食べていた。  私は展示用の二枚目の絵をやっと描き終えて、三枚目の下書きに取りかかっている。  まだあと一枚あると思うと、焦りがどんどん込み上げてくる。 「はあ……終わるかなあ」 「大丈夫よ。逆に締め切りがないとわたしなんにも描けないもの」 「それは分かる。私、夏休みの宿題とか、前日に片付けるもん」 「そうそう。締め切りなくして終わる作品はないものよ」  蘭の言葉に強く頷く。  卵焼きを頬張って、私はもう一度自分のキャンバスを見た。  今取りかかっているのは、練習中のダンサーの絵だ。  完成した一枚目と二枚目の絵は、きらびやかな衣装をまとった舞台写真を参考にした。  けど、最後の一枚は、練習をするダンサーの絵にしようと決めていた。  それは、陸名くんの練習の様子を生で見てしまったからかもしれない。  陸名くんは、きらびやかな衣装がなくても、照明がなくても、輝いていた。  どんなバレエダンサーも、最初から舞台に立てるわけじゃない。  ステージの裏にある努力を、どうしても表現したいと思ったのだ。 「あの、山来さんいますか?」  ガラリと美術室の戸が開いて、男子生徒がひょこっと顔を出した。 「なんでしょう」  お弁当を机において、蘭は顔をあげる。  私たちのキャンバスを見て、彼は申し訳なさそうな表情を浮かべた。 「日直で、先生が呼んでいて……」 「あっ! ごめんなさい、すっかり忘れていたわ」  蘭が慌てて立ち上がり、扉の方へと急ぐ。 「真彩ごめんね、すぐ行って戻ってくるわ」 「うん、荷物みてるね」  ガラリと戸が閉じて、私は美術室に一人になった。  広い部屋に一人なのは少し寂しいけど、私には完成させなきゃいけない絵がある。  一瞬だけ目をとじて、私は鉛筆を手にとった。  その時また美術室の戸がガラリと開く。 「あれ? 蘭、忘れ物?」  顔を上げると、そこにいたのは蘭じゃなかった。
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