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陸名周。
彼がじっとこちらを見ていた。
「あ……」
綺麗なまつ毛に白い肌、長い手足。
この美しい姿をみると、なぜだか上手く声が出なくなる。
昼休みなのにどうしてここにいるのって、聞きたいのに。話したいのに。
「……こないだはありがとな」
ぽつりと言葉が降ってくる。
意外な言葉だったので、驚いた。
「あ、ありがとうって、こちらこそだよ。助けてくれて」
がんばって声を出してみる。
「いや、おれは何もしてないよ」
無表情のまま、陸名くんは扉のそばを動かない。
このままだとまたすぐ行ってしまいそうで、私は思わず立ち上がった。
「あ、あのね。展示、やるんだよ」
「展示?」
陸名くんの目が私のキャンバスの方へと向いた。
「うん、部員が足りなくて、同好会落ちしそうなんだって」
「それはやばいな」
苦笑する陸名くんをみて、心の奥がキュンとする。
今日初めて笑ったの見た。なんだか嬉しい。
「よかったら、見る……?」
何気なく放った言葉だったけど、陸名くんの表情はみるみる明るくなる。
「いいのか?」
まるで子犬みたいなキラキラの瞳がこっちに向けられる。
ちょっとだけ、踊っているときの表情に似てる。
可愛い。なんて心の中で呟いた。
「もちろん!」
陸名くんはスタスタとこちらへ歩いてきて、描きかけのキャンバスの隣の椅子に座った。
「ダンサーだ。しかも……ステージの上じゃない」
キャンバスを見るやいなや、陸名くんが呟いた。
「うん。練習中の姿、描きたくなって」
「水口の絵、いつもステージの絵だったもんな」
いつも、という言葉に、私の絵をずっと見てきてくれたことを感じた。
陸名くんは絵から目を逸らさない。
小学校の時から、真剣に私の絵を見てくれてた人なんだ。そう思うとまた心の奥があたたかくなる。
「……陸名くんを見たから、描きたくなったんだよ」
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