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陸名くんと会話をしてから、驚くほど絵の作業が進んだ。
最後の一枚は、自主練習をするダンサーの絵。
自由にからだをストレッチしていた陸名くんを脳裏に浮かべたら、描きたい気持ちがどんどん強まって、気がつけば完成していた。
どこまでも柔らかい身体や、重力を感じさせないような腕の伸び。
夕方のオレンジがかった柔らかい光が、その身体を照らす。
いつも写真を参考にしながら描くけど、初めて、何も見ずに完成させた絵。
「できた……!」
思わず座っていた椅子から立ち上がる。
「真彩、完成しちゃったの!?」
絵筆から手を離して、蘭が驚いた声をあげる。
その奥から、展示用の額を選んでいた春人先輩がウキウキした顔であらわれた。
「見せて見せて〜」
目を輝かせながらこちらに歩いてくる二人。
ちょっと恥ずかしいような、でも早く見てほしいような。
キャンバスの前までくると、蘭がほうっと吐息を漏らす。
「真彩の絵のなかで、一番好きかも……」
「とても良いね……!」
「あ、ありがとうございます」
よかった。う、嬉しい。
蘭と春人先輩の素直な第一声に、ほっとする。
「これは、愛ね。真彩」
絵を見てうっとりしながら蘭が言う。
「あ、あい?!」
「ふふ。陸名くんそっくりですもの」
蘭の美しい笑顔が私に向けられる。
微笑ましそうな目でこっちを見るから、なんだかすごく恥ずかしい。
「そ、そんなに似てるかな……!?」
顔が熱くなってきて、顔を伏せずにはいられない。
たしかに、何も見ずに、陸名くんだけを頭のなかに浮かべて描いていたから、似てしまったかもしれない。
でも、愛って、どういう意味なの。
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