70人が本棚に入れています
本棚に追加
「似てるのに気がつかないほど集中していたんだね。絵への“愛”、とも言えるねえ」
春人先輩もにこにこしながら私に語りかける。
そうか。絵への愛。
でも、蘭が言っているのはもしかして、陸名くんへの——“愛”?
鼓動が早くなって、ますます顔の温度が上がっていく。
「おととい、陸名くんと会ったのよね。真彩」
「う、うん。蘭が日直の仕事でいなくなっちゃったあと」
「へえ、そうだったのか。どんな話したんだい?」
春人先輩が近くの椅子に座って、好奇心たっぷりに目を輝かせている。
「えっと……それは……」
「真彩のこと、『もっと知りたい』だそうですよ」
恥ずかしさで口をもごもごさせているうちに、蘭が言ってしまった。
「ちょ、ちょっと、蘭!」
また恥ずかしさがヒートアップする。
「それで真彩も、陸名くんのことをもっと知りたいって思ったのよね」
うっとりとした表情で、蘭が微笑む。
たしかに私も、彼のことをもっと知りたいって、思った。
「……うん」
こくりと頷く。
黙っていた春人先輩が、急に深くため息をついた。
「はあ……素敵だなあ」
「とっても素敵ですわ」
うっとりしたトーンで頷いている二人。
「さらに絵まで完成させちゃうなんて、素晴らしいよ」
「これが“愛”ですわね」
蘭はまたじっと絵をみつめて、にっこりと微笑んでいる。
「何回も言ってるけど、“愛”って、どういう意味なの?」
聞いてみると、蘭は一瞬きょとんとした顔をしてから、うふふといつもの顔で笑った。
「さて。私もラストスパート、取りかからなくちゃね」
「えっ。え!?」
「真彩ちゃん、こっちで額縁選べるよ」
「は、はい!」
蘭ははっきりとした返事をしないまま自分の席に戻る。
私は春人先輩に額縁の山を見せられて、結局、蘭のいう“愛”がなんなのかは、分からなかった。
でも、心の片隅では、陸名くんを初めて見た時から、わかっていた。
あたたかな、ある感情が芽生えていたことは。
最初のコメントを投稿しよう!