第二話

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○  部員募集中。  大きく黒く書かれた字は、春人先輩の毛筆によるものだ。  力強すぎて、その執念までもにじみ出てきそうな字。 「これで、準備完了だな!」  金曜日の放課後、私たちはいつものように美術室に集まっていた。  展示は来週の月曜日からなので、私たちは今日中に準備を終わらせなくてはならない。  無事、全ての絵は額縁におさまり、春人先輩が『部員募集中』の看板を描き終えた。  あとは月曜日の朝、美術室前の廊下に絵を飾るだけだ。 「おつかれさまです! 春人先輩」 「いやいや。真彩ちゃんも蘭も、おつかれさま!」 「展示、楽しみですね。うふふ」  自販機で買ってきたジュースを並べて、にこにこと笑い合う。 「描き終わって、よかったあ……」  ふうと大きく息を吐くと、春人先輩がはは、と笑った。 「短期間でたくさんの絵を描くのは、いい訓練になるよね」 「でも、真彩は余裕だったわよ。私が一番ギリギリ」  ほっとしたように、蘭もジュースを飲んでため息をつく。 「そんなことないよ。蘭は風景だもん、私より時間かかるはずなのに、完成させて、本当にすごいよ」  蘭も春人先輩も、私のようにブランクがない分、描くものが正確でずっと速い。  私ももっと上手く、速く、でも正確に描けるようになりたい。  そう思わせてくれる二人に出会えて、良かったなと心から思う。 「真彩は褒め上手さんね。ありがと」 「ほんとのことだよう」  机に並べられた絵をみて、はやくも達成感が湧き出てくる。  これで新しい部員が入ってきてくれたらいいな。  そして、無事活動が続けられたらいいな。  ちょうどジュースを飲み終えたところで、美術室の扉が開いた。 「すみません、テープって余ってたりしますか?」
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