第二話

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 ジャージ姿の生徒が、困った表情で立っている。 「あるとおもうよ。みんなは何部かな?」  春人先輩がすかさず立ち上がって、画材がしまってある箱に手をかける。  「ダンス部で、場ミリをしなくちゃいけないんですけど、テープがなくなってしまって」 「場ミリ?」  蘭と春人先輩が首をかしげる。 「場ミリは、舞台上に立ち位置を記しておくためのマークみたいなものですよ」  私が答えると、その場の全員が驚いた顔でこちらを見た。 「よく知ってるね、真彩ちゃん」 「バレエ、好きなので……!」  たまに舞台用語が役に立つので、バレエ好きで良かったなあとひしひし感じる。 「じゃあマスキング用のテープでも大丈夫かな?」  春人先輩が、画材箱からいくつか取り出しながら聞いた。 「はい! ありがとうございます」  ダンス部のなかの一人がお辞儀をしながらテープを受け取る。 「もちろん。来週展示をやるから、ぜひみにきてね」  にっこりと笑った春人先輩に、ダンス部員たちはうっとりと頷いた。 「あ、あの」 「うん?」 「この絵、陸名周さんですか」  机に並べられた絵を見て、ひとりの女子生徒がおずおずと聞いた。  ハッとして、その子の顔を見る。  この間陸名くんを探しに入ってきた女子グループの子ではなさそうだ。 「は、はい……」  恐る恐る頷いた。  陸名くんはこの学校のダンス部には入っていない。  でもやっぱり、みんな陸名くんを知っているんだ。  この間は妬むようなことを散々言われたので、少しだけ怖くなる。 「すごく素敵ですね。絶対、みんなで展示見に来ます!」  パッと明るい笑顔を浮かべてその子が言った。  その瞬間、心がすごく暖かくなって、とても嬉しくなった。 「あ、ありがとうございます! ぜひ来てください……!」  ぺこっと頭を下げる。  ジャージ姿の部員たちは、にこにこと手を振りながら美術室をあとにした。
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