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美術室前の廊下に、八枚の絵が並んでいる。
月曜から始まった絵の展示は、あっという間に金曜、つまり最終日を迎えた。
私たちは毎日、昼休み、放課後と、廊下に立つようにしている。
人が全然来ないこともあれば、先日のダンス部の人たちがまとまって姿を見せてくれた日もあった。
ただ彼らのお目当は陸名くんの絵だったので、少しだけ残念そうな表情で帰っていく。
それをみて、胸の奥が痛んだ。
でも、私はこれで良かったと思っているから、後悔はない。
「来ないわね、当の本人は」
放課後、最後の展示時間。蘭がふうとため息をつきながら廊下を見回す。
「陸名くん、忙しいもん。仕方ないよ」
「でも、来るって言ってたんでしょう?」
「うん、まあ……」
ちらりと時計を見ると、あと三十分ほどで下校時間だった。
内心、会えなくて残念な気持ちはたしかにある。でも今回は少し後ろめたいことをしてしまったので、どこかでほっとしていた。
廊下の先でバタバタと走る音がする。
運動部かな。音の方を見ようとしたら、蘭が隣であっ、と小さく悲鳴をあげた。
「蘭?」
「っ水口!」
えっ。
蘭の方を向いた瞬間に、背後で聞き覚えるのある声が私を呼んだ。
バッと振り向くと、息を切らせた陸名くんが立っていた。
「陸名、くん……」
前髪がじわりと汗に濡れて、おでこに張り付いている。
そんなに一生懸命、走ってきてくれたのかな。
「ごめん、ギリギリになって」
「ううん、そんな。全然」
その大きな瞳が私を見つめながら、こちらに近づいてくる。
久しぶりに見る陸名くんの姿に、心の奥がきゅんとした。
「わたし達、飲み物でも買ってくるわね」
「下校までには戻るね。ごゆっくり〜」
蘭と春人先輩が、にこにこしながら美術室前の階段を降りていく。
廊下には、私と陸名くんだけになってしまった。
しんとした空気のなかで、陸名くんが八枚の絵の前に立った。
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