第二話

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「……あれ、水口の、三枚目は?」  う。やっぱり、聞かれるよね。  ぐっと拳を握って、深呼吸する。 「陸名くんには、練習中のダンサーの絵を、見せたよね」 「うん」  陸名くんの目線は、壁に並んだ私の二枚の絵を見つめている。 「あの絵は、陸名くんを思い浮かべながら描いて、完成したんだけど——」 「そうなの!?」  輝いた目が、パッとこちらを見る。  私が陸名くんの絵を描くと、いつもこの表情になるから、少し可愛い。 「でも、展示しないことにしたんだ」 「え……なんで」  陸名くんの眉間に微かなシワが寄る。  心の奥がじわりと痛んだ。  もう一度深呼吸をして、私は陸名くんを見上げる。 「陸名くんの輝きに頼ってしまったから。でも私は、自分自身で、ダンサーの輝きを表現する方法を見つけたいの」  驚いたように、陸名くんの大きな瞳がわずかに見開かれた。 「それに、陸名くんを客引きに利用してしまったような気がして、嫌だったんだ。私は、陸名くんを描けるほど、上手じゃないのに」  ふうと息を吐ききって、飾られた絵に目線を落とした。  春の風が廊下を吹き抜けたかと思うと、気づけば陸名くんの手は、私の腕を柔らかく掴んでいる。 「水口は、自分に厳しすぎるよ。おれこそ、水口に描いてもらえるほど、輝いてなんかいないよ」  眉を寄せて、辛そうな面持ちで陸名くんが言う。  初めて見る苦しそうな表情に、心臓がぎゅっと痛む。 「そんな、こと」 「水口は自分に厳しいから、また、絵を描くのが嫌になるんじゃないかって……すごく不安になる」  腕をつかむ力がきゅっと強くなる。  ——『絵描くの、やめてんじゃねえよ』。  出会った時に聞いた言葉が、頭の中で反響する。  陸名くんはずっと、私の絵を好きで、今も、心から心配してくれているんだ。
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