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第三話
「やっぱり、駄目かなぁ……」
春人先輩が大きなため息をついたのは、展示が終わって二週間ほどたった日の放課後。
中間試験を挟んでいたので、あっというまに同好会降格まであと一週間となってしまった。
美術室には、春人先輩を中心に、どんよりとした空気が漂っている。
「結構人が来てくれたと思ったんですけどねえ」
さすがの蘭も困った顔で小さくため息をついた。
五月の一週目に部員募集のための展示を行なった美術部。
六月までに部員をあと二人増やさなければ、同好会に降格となってしまうのだ。
同好会になると美術室は使えなくなり、自由に絵を描くことが難しくなる。
「うーん、だれか、きませんかね」
私もつられてため息をついた。
「こうなったら陸名くんとか、引き入れられないかな……?」
いつもの穏やかな春人先輩はおらず、眼鏡の奥は必死の形相だ。
「そんなの無理にきまってますよ、春人さん」
呆れたように蘭が返事をして、春人先輩はがっくりと肩を落とす。
陸名くんは、私の絵を応援してくれる同級生。
ただふつうの高校生ではなく、バレエの国際コンクールで沢山の賞を取るようなすごい人だ。
たまに美術室の隣で練習しているところに遭遇しては、少しだけ話をする。
「たしか、八月にコンクールがあるって言って、忙しそうにしてました」
「やっぱりなあぁ」
春人先輩の沈んだ表情はさらに暗くなる。
どうにかできないものかと思うが、時間は無慈悲に経過していく。
「こうなったら僕のクラスメイトに声をかけてくるよ……!!」
おもむろに立ち上がってスマホを手にした春人先輩。
ふらふらと美術室を出て行って、私と蘭はその後ろ姿にエールを送ることしかできなかった。
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