第三話

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「もし降格になっても、蘭と春人先輩とお話できるなら、べつにいいや」  ぽつりと呟くと、蘭はきらきらと目を輝かせて私を見る。 「わたしも、真彩とお話できるなら正直どこだっていいわあ」 「ねー」  春人先輩の前では決して言えないけど、本音。  蘭も春人先輩も、私が絵を描きやすいように、とっても自由に接してくれる。  この環境は、ただただ心地よい。  その時、コンコン、とノックの音が響いた。 「ん?」  蘭と顔を見合わせる。  どうぞ、と蘭が言うと、ガラリと美術室の戸が開いた。 「火野諭(ひのさとる)です! 入部を希望します!!」  大きな声と共に、入部の申し込み用紙がピッと差し出される。  もう一度蘭と顔を見合わせた。  こ、これは。まさしく、入部希望者!! 「大歓迎です!!」  蘭と声を揃えて叫んだ。  蘭と私は彼を美術室の中央に座らせて、私たちもその周りに座る。 「わたしは山来蘭(やまきらん)。一年生よ」 「私は、水口真彩(みなぐちまあや)です。一年生で、蘭と同じクラスです!」 「あ、おれも一年です。よろしくお願いします」 「こ、こちらこそ……!」  火野くんが頭を下げたので、つられて私もぺこりと頭を下げた。  蘭はその様子をみてうふふと笑う。 「同じ一年生なんだから、もっとやわらかくいきましょ。ね」 「た、たしかに」 「そういえばそうだね。へへ」  笑い合って、初めて火野くんの顔がよく見えた。  その黒髪は蘭と同じくらい深い黒。  短く切りそろえられているので、入り口で見たときは運動部の人かと思った。 「火野くんはどうして美術部に?」  蘭が申し込み用紙を受け取って、にこにこしながら聞く。 「展示、みて、すっげー感動したんだ」  火野くんが力のこもった声で言う。 「ほんとう? 嬉しいなあ」 「水彩も、ちょっと怖い感じの油絵も、バレエの絵も、全部素敵だった」 「あら、よく見てくれてたのね。ありがとう」  展示は誰にみられているかわからないけど、こうして絵の感想をもらえると、とても嬉しくなる。
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