第三話

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「火野くんは絵を描くの好き?」  こうして絵を見てくれてる人だから、絵が好きなんだろうな。  そう思って聞いたけど、火野くんの表情がわずかに曇った。  空気がちょっとだけ重くなる。 「うん。好きだと思う。でも——」  火野くんが口を開こうとした瞬間、ガラリと美術室の引き戸が開いた。 「新入部員、連れてきたぞ〜!!」  春人先輩の爛々とした声と共に、もう一人は春人先輩に肩を掴まれるような形で入ってきた。 「まじふざけんなよ春人」  金髪で、ひょろりとした長身の男の人。長い前髪の隙間から覗いた目は険しい。  たしかにこの高校は髪色自由だし、金髪の人もたまにいるけど。  このひと雰囲気が、なんだか、こわい……!  火野くんと私は完全に固まっていた。 「彼は葉村慎(はむらしん)! 僕のクラスメイトで、幼馴染だよ」  幼馴染ってことは、蘭も知ってるのかな。  ちらりと蘭を見ると、蘭は今までになくキラキラとした眼差しで葉村先輩のことを見ていた。 「見た目怖いし、ほぼヤンキーだけど、優しいやつだから。みんな仲良くしてやってな」 「おい、入るとか誰もいってねーぞ」 「中学のときバレー部手伝ってやっただろ。助け合いだよ、これは」 「お前、性格わりいな……」  葉村先輩は諦めたようにぐったりと肩を落とした。 「それに、蘭もいるし。幼馴染がいっぱいで安心だろ」  春人先輩が蘭と呼ぶと、ぴくりと葉村先輩が反応した。 「蘭?」 「お久しぶりです、慎さん」  三つ編みを揺らしながら、蘭は先輩たちの方へと歩いてゆく。  葉村先輩は一瞬驚いた様子をみせたけど、口元は微かに笑っていた。 「おう」  長身の葉村先輩と並んでも、凛としている蘭はやっぱり絵になる。  春人先輩と並んでいる時にいつも思うけど、今日の蘭はいっそう大人っぽく見えた。
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