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そういえば。あれから、葉村先輩は宣言通り一度も美術室に来ていない。
「蘭、だいじょうぶ?」
近づいていって、こっそりと声をかける。
蘭はハッとしたようにこちらを見て、にこりと笑った。
「もちろん。さ、デッサンしましょ」
いつも通りの笑顔の裏には、曇ったなにかがある。
「葉村先輩のこと、気になるの?」
そっと蘭の肩に手を置いて、小さな声で聞いた。
蘭のからだがぴくりと反応する。
長いまつげを伏せて、蘭は小さくこくんと頷いた。
やっぱり、葉村先輩のこと、気になるんだ。
「蘭、なにかあったら、いつでもいってね」
蘭は私のことをいつも応援してくれる。
私も、蘭の力になりたいと心の底から思う。
「……ええ。ありがと、真彩」
ふんわりと笑った蘭の顔はいつも通り美しい。
蘭はそれ以上何も言わなかったから、私も何も聞かなかった。
蘭が鉛筆を手にとったので、デッサンの邪魔にならないように、私も席へと戻る。
話したい時に、話してくれるのを待つと、決めていた。
蘭が私に、いつもそうしてくれるから。
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