第三話

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 そういえば。あれから、葉村先輩は宣言通り一度も美術室に来ていない。 「蘭、だいじょうぶ?」  近づいていって、こっそりと声をかける。  蘭はハッとしたようにこちらを見て、にこりと笑った。 「もちろん。さ、デッサンしましょ」  いつも通りの笑顔の裏には、曇ったなにかがある。 「葉村先輩のこと、気になるの?」  そっと蘭の肩に手を置いて、小さな声で聞いた。  蘭のからだがぴくりと反応する。  長いまつげを伏せて、蘭は小さくこくんと頷いた。  やっぱり、葉村先輩のこと、気になるんだ。 「蘭、なにかあったら、いつでもいってね」  蘭は私のことをいつも応援してくれる。  私も、蘭の力になりたいと心の底から思う。 「……ええ。ありがと、真彩」  ふんわりと笑った蘭の顔はいつも通り美しい。  蘭はそれ以上何も言わなかったから、私も何も聞かなかった。  蘭が鉛筆を手にとったので、デッサンの邪魔にならないように、私も席へと戻る。  話したい時に、話してくれるのを待つと、決めていた。  蘭が私に、いつもそうしてくれるから。
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