第三話

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「春人先輩、この石膏、周りの風景と一緒に描いてみたらどうでしょう」 「周りの?」  不思議そうに春人先輩が首をかしげる。  普通石膏デッサンは、石膏以外は描かないからだ。 「この石膏だけに的を絞るから、崩れてしまうんだと思います。いつも風景を描くみたいに、視野を広くしてみたら、きっとうまくいくんじゃないかなって……!」  確信はないけど、なんだかそんな気がして、言葉に力が入った。 「なるほど。それは的確な指摘だね。ありがとう真彩ちゃん、もう一回描いてみる!」  春人先輩は大きく頷いて、スケッチブックを私の手から受け取った。  よかった、伝えられた。  静かに深呼吸をしてから、次に火野くんのスケッチブックを手に取る。  正確な物体の捉え方をしている、と思った。  春人先輩のように、バランスが崩れているところはどこにもない。 「やっぱり火野くんは、デッサンがすごく上手だね……」  入部してからいくつかスケッチを見てきたけど、火野くんは絵が上手い。  絵が好きだと言っていた気持ちが、よく伝わってくる。 「そうか?」  当の本人はきょとんと首をひねる。 「うん。でも、春人先輩と反対で、陰影がまだくっきりしていないかも。石膏が、立体的に見えないような……」  しかし、アタリの付け方は完璧だ。  陰影を突き詰めて描けるようになれば、写真のような作品になるかもしれない。  火野くんは春人先輩のスケッチブックをひょいと覗き込む。 「うわ、ほんとだ。おれの、ぼやぼやしてるな」  春人先輩のデッサンと自分のを比較して、火野くんは目を丸くした。 「へへ、比べてみるとよく分かるよね」  陰影の付け方は、春人先輩が抜群に上手いので、とても良い比較対象だ。 「同じものを描いてても、描き方でこんなに変わるんだな」  関心したように火野くんが言った。
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