第三話

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 あれから、春人先輩と火野くんのスケッチを見るのが毎週の習慣になっている。  もちろん、人物画だけ。  逆に静物や風景は私の方がずっと下手なので、蘭と春人先輩に見てもらうようになった。 「火野くん、すごい! 立体感がずいぶんでるようになったね」  火野くんのスケッチブックを見つめて、思わず笑みが溢れた。  たった二週間ほどで、こんなにも上手くなるんだ。  私も、こんな風に成長できているのかな。 「ま、春人先輩には到底追いつけないけどな」 「そうかしら。すぐ追いついちゃいそうだけどね」  くす、と冗談交じりに蘭が呟く。 「蘭〜? 何か言った〜?」  奥で絵の具を出していた春人先輩が、慌てて顔を出した。 「いいえ、なんにも」  蘭は楽しそうな表情で、自分のスケッチブックがある席へと戻った。  その蘭の様子に、春人先輩は苦笑いを浮かべながら、水彩の準備をし始める。  その様子はいつもの二人のままで、なんだか微笑ましい。 「あっ」  春人先輩が小さく悲鳴をあげたので、火野くんと私は驚いて振り向いた。 「どうかしましたか!?」 「マスキング用のテープ、ダンス部に貸したままだった……」  そういえば、展示の前に、大量のテープをダンス部に貸したのだった。  実はそれらはまだ戻ってきていない。  でも、マスキングをするのは水彩の絵を描く春人先輩だけなので、全く気がつかなかった。 「私、取ってきますね!」  火野くんのスケッチを見終わったところだったし、ちょうど良い。  私が立ち上がった瞬間、火野くんもすっと出口の方へ動いた。 「おれも行きます」  春人先輩は申し訳なさそうな顔でぺこっと頭を下げる。 「ごめんね、よろしくね。確か三個くらい渡したと思う」 「わかりました!」  私と火野くんは足早に美術室を出た。  ガランとした廊下には、グラウンドから聞こえる運動部の掛け声が響いている。 「あれ、ダンス部って、体育館で練習してるんだっけ」  私が聞くと、火野くんは迷いなく首を横に振る。 「いや、地下体育館。体育館は——バスケ部がいるから」  バスケ部、と口にしたとき、火野くんの表情が少し暗くなった。
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