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初めて会った日に、『絵を描くの好き?』と聞いたときと、同じような表情だ。
「詳しいねえ、火野くん」
火野くんはそれ以上口を開かなかった。
私たちはあっという間に地下の体育館に到着した。
キュ、キュと、上履きの音が激しくこだましている。
そっと覗き込むと、十人くらいのグループが音楽をかけて踊っていた。
見回すと、床に座り込んで休憩している中に、あの日見かけた生徒を発見した。
その子は黒髪のショートボブで、すぐにわかった。
「あ」
「あっ!!」
目があって、その子も私たちに気がつく。
その子は慌てて近くにあった用具箱からテープを取り出して、こっちに走ってきた。
「遅くなってしまってごめんなさい! 本当に助かりました!!」
「いえいえ、役に立ってよかったです〜」
ぺこぺこと頭を下げる女の子に手を振って、私たちは地上に続く階段を登り始めた。
「回収できて良かったな」
「うん、向こうが気づいてくれて助かったあ」
ほっとして胸をなでおろす。
階段を上がると、ちょうど地上の体育館から出てきたバスケ部の集団に出くわした。
「あ、火野!」
赤いゼッケンをつけた男の子が、火野くんに手を振りながらこちらに近づいてくる。
火野くんの体は、手を振り返すのを躊躇するように一瞬かたまった。
「お前、バスケ部入んなかったのかよ」
同じ中学の子だろうか。
ちらりと火野くんを見上げると、ぎこちない笑顔を浮かべていた。
「お前といんのに飽きたんだよ」
冗談交じりに火野くんが返す。
「あはは、つら。てかお前まさか、美術部とか入ったんじゃねーよな」
テープを抱えた私をちらりと見て、その子が冗談交じりに言う。
あ——。
ぎこちない笑いを浮かべていた火野くんの表情が、一瞬で曇った。
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