70人が本棚に入れています
本棚に追加
「……え、まじ? 本気で? 美術部?」
まるで美術部を下に見ているみたいな言い方だ。
火野くんはぎゅっと拳を握って俯いたまま、返事をしない。
私の心の奥に、チリチリと黒いなにかが込み上げてくる。きっと火野くんもその感情と戦っている。
「なんでだよ、バスケ続けてりゃいいのによー。つーかお前そんなに絵上手かったか?」
目の前の男の子が、はは、と鼻で笑いながら言い放つ。
この人は、何にも火野くんのことを知らないんだ。
絵を描くのが好きな火野くんのことは、何も。
「あなたは知らないと思うけど、火野くんはすごく絵が上手です! あなたが思ってるより、何倍も!!」
気がついたら叫んでいた。
無人の廊下に声がこだまして、急に顔が熱くなってくる。
火野くんは驚いたように目を丸くして、パッとこっちを見た。
「え、あ……」
目の前の男の子は、私が怒鳴ると思っていなかったのか、ポカンと口を開けている。
「行こう、火野くん!」
これ以上赤い顔を見られたくなかったのもあって、私は火野くんの腕をほぼ無理やりに掴んで、廊下を歩き始めた。
「お、おう……!」
火野くんも足早についてくる。
心臓はまだバクバクと脈打っていた。
最初のコメントを投稿しよう!