第一話

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 次の日の放課後、私は美術室への道をおそるおそる歩いていた。  蘭以外、どんな人がいるんだろう。  また競争の世界だったら、どうしよう。  廊下を進む足は重い。  その上、まだ校舎に慣れないせいもあって、なかなかそれらしき教室にたどり着かない。  周りの教室をちらちらと覗きながら進んでいると、ふと何かが目に入った。  しなやかなに弧を描く腕。伸ばされる指先。静かに空を切るようなターン。  バレエだ。  ドキンと胸が高鳴る。  そこは無人の教室で、男子生徒が一人で練習をしているようだ。  気付けば私はその動きを食い入るように見つめていた。  ウォーミングアップをしているのか、ゆっくりと丁寧な動きだ。  まるで重力なんてないみたいに、その腕や指先は頭上まですっと伸びている。  栗色の髪は放課後の光を浴びて、時折透けているようだった。  初めてバレエを見たときのような衝撃。  私がその人から目を離せないでいると、ふと彼と目が合った。  というか、合ってしまった。  はっとしてその場を立ち去ろうとした瞬間、教室のなかから「待てよ」、と小さく声がした。  身動きが取れなくなって、数秒。  いつの間にかその人は教室から出て、私の数メートル先に立っている。  その大きな瞳は、キッと私を睨みつけている。  勝手に覗いてたから、怒ってるんだ……! 「ご、ごめんな——」  私の謝罪は、彼の怒鳴り声に遮られた。 「絵描くの、やめてんじゃねえよ」
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