第一話

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「きっとそれ、『陸名周(りくなめぐる)』だわ。この高校に来たとは聞いてたけど——真彩、すごいじゃないの!」 「りくなめぐる……?」 「わたしたちの年代のトップバレエダンサーよ。海外の賞も獲りまくってるの」  キョトンとして思わず目が点になる。  目が離せなくなるほどの綺麗な人だったけど、まさか、そんなすごい人だったなんて。 「真彩はそんなひとの人生変えちゃったのね。やっぱり本当にすごいわ、真彩」  きらきらした瞳で蘭に見つめられると、ますます変な気分になってくる。 「でも、私、心当たりが全くなくて——」 「わたしはなんとなくわかるわ」  蘭がにこりと微笑んだ。 「えっ!? なに、教えて」 「それは——本人に聞いた方がいいわね」  本人。って、陸名くんに、直接話すってこと。  私を睨みつけていたあの瞳。  ものすごく怖かったけど、とても綺麗だった。 「でも、聞くって、どうやって……?」 「じつはさっき、美術部の先輩が言ってたの。彼、入学してから時々この教室で練習してるんですって」 「じゃあ、また、会えるのかな」  もう一度、彼の踊りが見たい。  そして、話してみたい。まだ少しだけ怖いけど。 「ええ、きっと。」  私の背中を押すように、蘭が力強く言った。 「そっか……」  また会えるんだ。  心臓が再びドキドキと大きく脈打ちだした。 「それより真彩。ここにいるってことは、美術部を見にきてくれたの!?」 「う、うん。蘭がいるならって思って……」 「嬉しいわ! 善は急げよ。行きましょっ」  目を輝かせて蘭が私の手をひきあげる。  私もその勢いにつられて立ち上がった。  ちょっとだけ緊張するけど、蘭がいればきっと大丈夫。  蘭が楽しそうに私の手を引いて廊下を進んでいく。  美術室は、彼を見た教室のすぐ奥にあった。
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