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「きっとそれ、『陸名周』だわ。この高校に来たとは聞いてたけど——真彩、すごいじゃないの!」
「りくなめぐる……?」
「わたしたちの年代のトップバレエダンサーよ。海外の賞も獲りまくってるの」
キョトンとして思わず目が点になる。
目が離せなくなるほどの綺麗な人だったけど、まさか、そんなすごい人だったなんて。
「真彩はそんなひとの人生変えちゃったのね。やっぱり本当にすごいわ、真彩」
きらきらした瞳で蘭に見つめられると、ますます変な気分になってくる。
「でも、私、心当たりが全くなくて——」
「わたしはなんとなくわかるわ」
蘭がにこりと微笑んだ。
「えっ!? なに、教えて」
「それは——本人に聞いた方がいいわね」
本人。って、陸名くんに、直接話すってこと。
私を睨みつけていたあの瞳。
ものすごく怖かったけど、とても綺麗だった。
「でも、聞くって、どうやって……?」
「じつはさっき、美術部の先輩が言ってたの。彼、入学してから時々この教室で練習してるんですって」
「じゃあ、また、会えるのかな」
もう一度、彼の踊りが見たい。
そして、話してみたい。まだ少しだけ怖いけど。
「ええ、きっと。」
私の背中を押すように、蘭が力強く言った。
「そっか……」
また会えるんだ。
心臓が再びドキドキと大きく脈打ちだした。
「それより真彩。ここにいるってことは、美術部を見にきてくれたの!?」
「う、うん。蘭がいるならって思って……」
「嬉しいわ! 善は急げよ。行きましょっ」
目を輝かせて蘭が私の手をひきあげる。
私もその勢いにつられて立ち上がった。
ちょっとだけ緊張するけど、蘭がいればきっと大丈夫。
蘭が楽しそうに私の手を引いて廊下を進んでいく。
美術室は、彼を見た教室のすぐ奥にあった。
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