第一話

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 蘭がガラガラと美術室の引き戸を開けた。  恐る恐るのぞいてみると、そこには一枚のキャンバスと、一人の男子生徒しかいなかった。 「春人さん! 彼女を連れてきましたよ」  蘭がパタパタと教室の中へ駆けていく。  部員、もしかして、あの人しかいないのかな……?  蘭が声をかけると、春人さんと呼ばれた生徒がこちらを見た。 「きみが、水口真彩さんだね」  眼鏡の奥で、切れ長の瞳が光る。 「は、はい……」  とても優しそうなひとだ。  その穏やかな微笑みに、緊張がほどけていく。 「蘭には聞いていたけど、絵も、本人も、すごく綺麗だね!」 「え!?」 「そうでしょ。真彩は身も心も美しいひとなんですっ」 「ちょ、ちょっと!」  私を見てにこにこ笑っている二人に、どんどん顔が熱くなる。  こんなに一度に褒められると、どうしていいかわからない。 「あ、そうだ。僕の名前は兒玉春人(こだまはると)。春人先輩って呼んでね」  あたふたする私に、春人先輩がにこりと微笑む。 「は、はい……」  まだ入部すると決めたわけではないけど、その微笑みには無条件に頷いてしまう。 「実は、春人先輩とは同じ中学に通っていて、幼馴染なの」 「そうだったの!?」 「ええ。真彩も信頼できるひとだと思うわ」  蘭が私の不安をかき消すように言う。  蘭がそういうなら。私はもう一度、この美術部で頑張れるかもしれない。 「真彩ちゃん、なにかスケッチでもしてみるかい?」
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