70人が本棚に入れています
本棚に追加
蘭がガラガラと美術室の引き戸を開けた。
恐る恐るのぞいてみると、そこには一枚のキャンバスと、一人の男子生徒しかいなかった。
「春人さん! 彼女を連れてきましたよ」
蘭がパタパタと教室の中へ駆けていく。
部員、もしかして、あの人しかいないのかな……?
蘭が声をかけると、春人さんと呼ばれた生徒がこちらを見た。
「きみが、水口真彩さんだね」
眼鏡の奥で、切れ長の瞳が光る。
「は、はい……」
とても優しそうなひとだ。
その穏やかな微笑みに、緊張がほどけていく。
「蘭には聞いていたけど、絵も、本人も、すごく綺麗だね!」
「え!?」
「そうでしょ。真彩は身も心も美しいひとなんですっ」
「ちょ、ちょっと!」
私を見てにこにこ笑っている二人に、どんどん顔が熱くなる。
こんなに一度に褒められると、どうしていいかわからない。
「あ、そうだ。僕の名前は兒玉春人。春人先輩って呼んでね」
あたふたする私に、春人先輩がにこりと微笑む。
「は、はい……」
まだ入部すると決めたわけではないけど、その微笑みには無条件に頷いてしまう。
「実は、春人先輩とは同じ中学に通っていて、幼馴染なの」
「そうだったの!?」
「ええ。真彩も信頼できるひとだと思うわ」
蘭が私の不安をかき消すように言う。
蘭がそういうなら。私はもう一度、この美術部で頑張れるかもしれない。
「真彩ちゃん、なにかスケッチでもしてみるかい?」
最初のコメントを投稿しよう!