第一話

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第一話

「絵描くの、やめてんじゃねえよ」  高校に入学して三日目の放課後。  オレンジがかった光が廊下を照らすなか、見ず知らずの男子生徒に怒鳴られた。  心臓がバクバクと脈打ったのは、その顔があまりにも綺麗だったからか。  それとも、誰かに怒鳴られたのは久しぶりだったからか。  その大きく真っすぐした瞳に見据えられていると、声を出すことも出来なかった。  じっと立ちすくむことしか出来ないでいると、彼は苛立った表情でスタスタと私の方に歩いてくる。  顔が近づいてきて、長いまつ毛や、真っ白い絹のような肌が目に入った。彼と私の視線がパチリと交差する。 「おれは、あんたの絵に人生変えられたんだよ」  苛立った声が私に言い放つ。  時間が止まったみたいだった。私が思考停止状態に陥ったから。  気付けば彼はとっくに私を通り過ぎて、廊下にその姿はなくなっていた。
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