ふたり

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それだとサキが遠くなるでしょ? サクはそう言ったけれど、私はそれでもいいと首を振った。 あの場所で待ち合わせをして、デートに向かう。 そうやって、待ち合わせとデートを繰り返して。 それももう、何度目になっただろう。 あれから季節は3回目の春を迎えた。 大学を卒業した私たちは、それぞれ無事、就職をして。 今日で待ち合わせも終わりだ。 頭上には満開の桜と青空。 はらはらと花びらが舞っている。 『それで、結婚式はいつなんだ?』 「亜季、そんなのまだ決まってないよ。今日から一緒に住むってだけで……」 『なに!?結婚もしないで一緒に住むのか!?』 「ちょっと、お父さんみたいなこと言わないでよー」 『もしかして、プロポーズもまだなのか!?』 電話口から聞こえる声は、半分本気で半分笑っている。 「亜ー季ー。あのねぇ、結婚とかそいう言うのはいろいろタイミングがあるでしょー?」 『はははっ、そうだね。とにかく引っ越し、頑張って』 「もう、」 あっさり切れた通話に、スマホへ視線を落としたら。 「……今このタイミングだと思ってたんだけど」 後ろから聞こえた声に、思い切り振り返った。 「サク、」 ちょっと困ったように笑う顔は、付き合いだしてから変わらない。 照れると口元を覆う癖もかわらないけど、ここで出会った頃よりもすっかり“大人”な雰囲気の彼に。 ここで待ち合わせをするたびに、やっぱり好きだな、と思うんだ。 「サキ。今日から一緒に住む部屋の鍵」 「あ、うん」 差し出した手に載せられた鍵は、なんだか重く感じる。 「それから……」 ジャケットのポケットをまさぐって、差し出されたのは小さい箱。 「結婚、してください」 開けた箱の中には、ずっと前から欲しいと思っていたリング。 「……結婚指輪は一緒に選びたかったから」 言いながら、箱からリングを取り出して、私の左手を持ち上げた。 「…………返事がないけど、つけてもいいの?」 ちょっといたずらに、ぽんと頭に手を置いて覗き込む。 「もちろん!!」 見上げた勢いで、目から涙がこぼれた。 「サキの後姿が見えた時、最初にサキを見つけた瞬間を思い出したよ」 言いながら、ゆっくり薬指に指輪をはめる。 「でもあの頃よりずっと、綺麗だ」 大きな手が一度口元を覆った。 「ちゃんと返事を聞かせて」 「よろしくお願いします」 差し出された手を通り越して。 舞い落ちる花びらのなか、彼に抱き着いた。 ~fin~
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