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それから
時間ギリギリに二人で飛び込むように教室に入り、そのまま隣り合って席に座ると講義を受けた。
その時間中、私はずっと、隣に座る彼に半分以上意識を持っていかれていて。
かといって、視線を向けることは出来ずに、ただただ必死に教授の話を耳に入れようとしていた。
その努力は虚しく、今日の講義に関しては全く頭に入らなくて。
最後の10分、諦めて息を吐きつつ肩の力を抜いた横で、ふっと少し笑った息遣いがした。
ちらりと見上げた横には、彼が……サクが頬杖しながら私へ視線を向けていて。
その口元が持ち上がり、わずかに微笑んでいる。
かっ…………こいいーーーーー!
心の中で叫んでいた。
「っ、どうかした?」
サクは頬杖から少し顔を起こして、ほんのり頬を染めると小さい声で言った。
えっ!あ、えっと、ううん、何も!
慌てて首を振る。
え、やだ、もしかして声に出してたとか、ないよね!?
視線をうろつかせた私に、また小さく笑う息遣いが聞こえた。
「ごめん。俺を見て、目を見開いたから、」
大きな手で口元を覆った彼は、完全に笑いを堪えている。
え、うそ。
そんな笑うほど、私、目を見開いたってこと?
恥ずかしくなって視線をうろつかせた末に、机に載った資料に目を落とす。
どうしよう。
なんか、すっごい恥ずかしい!
かっこいいと声に出してたら、それはそれでとても恥ずかしいけれど。
だんだん顔が熱くなってきた。
「はい、今日はここまで」
教授の声が遠くに聞こえ、教室が一気にざわつき始める。
ふと隣から気配が近づいて、
「可愛かったから」
耳元でささやいて離れていった。
か、か、かわいかったって、
思い切り振り返った私に、サクは困ったように笑う。
初めて見たその表情に胸がきゅんとなった。
「サキ、顔赤いよ」
「サクだって」
「……もういいから、行くよ」
荷物を持って立ち上がったサクは後ろを向いたけど、髪から覗く耳が赤い。
慌てて荷物を鞄に入れて立ち上がったら、振り返ったサクはまだ見慣れない、満面の笑みだった。
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