108人が本棚に入れています
本棚に追加
「ヘイヘイヘーイ!そこのお二人さん!」
サクは、振り返ろうとした私の手を引っ張った。
「こらこら、サクちゃん!俺を無視するなって」
「…………」
無言で私の手を引き歩き続ける。
「あれー?一体誰のおかげで、」
「政宗!!」
マサムネ??
勢いよく振り返ったサクは、後ろから声をかけるその人を睨みつけた。
マサムネって、政宗?伊達の?政宗?
一瞬亜季の顔が頭に浮かんだ。
いや、亜季は今、沖田様推しだった。
見上げたその人は、長めの髪と服装がすごくおしゃれで、サクといつも一緒に居る人だ。
武士みたいな名前とのギャップがすごいなぁ、なんて思いながら見上げていたら、私に視線を落としたその人は神妙に一度頷いて見せた。
「言いたいことはよくわかる。けどさ、伊達の政宗さんが今の時代を生きていたとしたら、きっと俺みたいだったよ」
にこって笑って。
……確かに、伊達の政宗さんはオシャレさんなイメージがある。
「確かに」
「だろ?ってことで、よろしく!」
すっと出された手に握手をしようと伸ばした私の手は、サクが掴んだ。
「政宗。お前はまだ次の講義あるだろ。早く行けよ」
「なんだよー。握手くらい、いーだろー?自己紹介くらい、してもさー。これからは俺も会うことになるんだしぃ」
確かに、サクのお友達なら、会う事も多くなりそうだ。
そう思って頷きかけたところで、サクが掴んだ私の手を引いた。
「うるさい。俺だってまだ始まったばかりなんだから、お前はしばらく駄目だ」
「あー、そう。そうね。確かに、そうね。わかった。んじゃ、とりあえず俺は、次の講義に行ってきます」
手を振って去って行った後ろ姿に、隣でため息がする。
「アイツ居ること忘れてた」
「忘れてたの?」
だっていつも一緒にいる印象なのに。
ちょっと笑った私に視線を落として、サクは手を引くと歩き出す。
「……今の状況でいっぱいいっぱいだし」
ぽつりとつぶやくようにして言われた言葉に、私も頷く。
まだ付き合いだして、2時間経つ程度だ。
「サキ、今日はもう、講義ないでしょ?」
「うん」
「じゃあ……どこか寄って行かない?」
お互いまだ何も知らないことばかり。
「ゆっくりお茶でも飲みながら、サキの事、教えてほしい」
僅かに力の入った手を、私も握り返した。
最初のコメントを投稿しよう!