108人が本棚に入れています
本棚に追加
大学から程近くにあるお洒落なカフェは、うちの学生に人気だ。
私も亜季とともに一度立ち寄ったことがある。
でも、大学生も3年目なのにその間にたった一度切りとは、華やかな大学生活とは言えないなぁなんて思うと、ちょっと苦笑が漏れた。
向かいに座り首を傾げたサクに、また一つ苦笑を漏らす。
「ここ、1度しか来たことないから……」
落ち着かなくてなんとなく座り直したら、サクは店内に視線を流してコクリと頷いた。
「俺も、実はあまり落ち着かない。アイツら……政宗によく引っ張られて何度か来たけど、まだ馴染めてない」
私が知っているサクのお友達は、とてもオシャレでかっこよくて可愛い。
こんなカフェにピッタリで、でもサクが馴染めていないというのも頷けた。
彼はそんな友人たちの輪の中で、一人だけ雰囲気が違っていて。
私はそこにとても惹かれたのだけれど。
「でもここしか思いつかなかった」
「うん。私、また来てみたいと思ってたから、嬉しい」
「そうか」
「うん、」
店内に流れる曲はゆったりとしたボサノバ。
少し掠れた女性の歌声が心地いい。
頼んだカプチーノにはラテアートが施されていて、ハートがぐるりと輪になっていた。
一口飲んで、ほっと息を吐く。
暫くお互い無言だったけれど、不思議ととても心地よかった。
時々じっと私を見つめる視線には慣れなくて、逃れるようにカップに口をつける。
そんな私を見て、サクは頬杖をつくと微笑んだ。
あぁ、かっこいい……。
ずっとちらちら遠くから見ていた横顔が、こっちを見て微笑んでいる。
3秒見つめるのが限界で、自分の視線が大きく揺れるのがわかった。
「今、なに考えた?」
楽しそうに目を細めて、問う。
何って、それは。
「……かっこいいなって、」
言い逃げのようにまたカップを持ち上げて、ほんの少し口をつけながら、ちらりと彼を覗き見した。
大きく目を見開いて、頬杖の手が口元を覆う。
「……あー、もう。……かわいい」
小さく呟かれた言葉がしっかり耳に届いてしまい、私の顔があっという間に赤くなるのが分かった。
よ、よかった。
両隣の席に誰もいなくて。
もしここに亜季が居たら、「甘ったるくて胸焼けする」と言うだろう。
いや、今までの私も言うと思う。
当事者は気づかない。
“二人の世界”とは、こういう事なんだと思う。
最初のコメントを投稿しよう!