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ゆっくりお茶でも飲みながらお互いの話を、なんて店に入ったのだが、結局二人ともあまり落ち着かなくてゆっくりなんてしていられなかった。
だから、お互いの事なんてまだ何も話していない。
ゆっくり歩幅を合わせて歩き始めた。
「……こういう時は、普通どこに行くんだ……?」
ぼそりと呟かれた声に私も首を傾げる。
大学で彼氏がいる友人は、講義が終わり次第スマホ片手にさっさと帰っていく。
私も大学に意味もなく留まることはしなかったから、講義が終わるとさっさと帰る。
で、皆さん、どこでデートしてるんだろう?
ぼんやり考えながら、デートという言葉に勝手に頬が染まった。
「あ、」
不意にサクがそう言って、私の手を掴んだ。
「あそこ、行こう」
手を繋いで向かった先は、サクと出会ったお花見の公園だった。
つい数日前、出会った場所。
桜の木の下までたどり着いて、近くのベンチに二人座った。
「あっという間に散ってるな」
「そうだね。あの時満開だったのに」
風になびいた花びらたちが、絨毯へと変わっていく。
それもまた綺麗でじっと見つめていたら、隣り合った手がぎゅっと繋がれた。
「静かだな」
「うん、」
公園には遅い花見をする人たちが居て、散歩する人たちが居て、急いで通り過ぎる人たちが居て。
しんと静まり返るような意味ではない。
「この間まで……桜が咲いても散っても俺にはどっちでもよくて、花見なんてただ煩く騒いで酒飲むだけで、みんなが騒ぎたいからするもんだと思ってたけど」
じっと目の前の景色を見つめながらそう言ったサクは、私に視線を移すと少し困ったような顔で微笑んだ。
「サキを見つけた瞬間、パッて視界が開けて、でも俺にはサキしか見えなくて、舞ってる花びらが綺麗で、ピンク色だって気が付いて、風が心地よくて桜の匂いがして。……花見っていいもんだと思ったよ」
なんか、そんな言い方。
私と出会ったからだって言われてるみたいな。
「サキを見つけたから、だな」
~~~~~~っ!!!
言葉にならない叫び声は、歯を食いしばって飲み込んだ。
め、目が、チカチカする。
もう、もうっ、もうっ!
サクは、かろうじて微笑み返した私の手を、もう一度ぎゅっとした。
ドキドキが耳元で煩い。
煩くて、苦しくて。
でも、とても、とても。
嬉しくて、楽しい時間だった。
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