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翌日、一限目の講義が始まる前。
教室のせり上がる座席が並ぶ前方の端。
私の話を聞いた亜季は口をぽかーんと開けたまま固まってしまった。
瞬きもしていない。
「亜季。亜季?」
彼女の二の腕を掴んでぐらぐらと揺すると漸く復活し、今度はすごい速さで瞬きをする。
徐にスマホを取り出して、美形沖田様に視線を落とした。
「ちょっと、亜季。現実逃避しないで」
「違う。これは私の現実だ」
「あ、なるほど……?」
「いやはや。昨日の今日で、なんとしたことか」
「うん、私も昨日、帰ってから何度頬をつねったことか」
「あぁ。どおりで今日は顔が腫れぼったいと思っていたら、そういうことか」
「えっ!うそ!?」
「嘘だ」
亜季はにやりと笑うと急に悔しそうに宙を見つめた。
「しかし、惜しい事をした。沖田様とデートのために早く帰ってしまったが、あのままもう少し咲と居れば、ドキドキの急展開をこの目でしかと見届けることができたものを……くそっ」
亜季は、チッなどとわざとらしく舌打ちをしてみせた。
それから私を見つめて微笑むと、よかったと呟いた。
「それで?お互いの話はできたんだろう?」
「……うん。って言っても、ほとんどのんびり景色を眺めて、夕方一緒にご飯食べに行って、その時ちょこっと、好きな食べ物の話、とか」
「うん、むずがゆい」
「ですよね」
「だが、それこそが恋人同士というものであろう」
腕を組んだまま納得するように頷く亜季は、鋭く視線を私の後ろへ向けた。
「む。現れたな」
「え?」
振り向くタイミングで影になり、隣に人が座った。
「サキ。おはよう」
「サク!あ、お、おはよう」
亜季が目を眇めてサクを見た。
これは……紹介する感じ……?
「えっと、サク。友達の、佐々木亜季。いつも一緒にご飯食べたりしてて、」
「……ども、」
「咲を見つけるとは良い目をしているな」
この間はすごい睨みつけてたくせにっ!
「俺もそう思います」
「うむ。よし」
私を挟んで頷きあう亜季とサク。
「あははっ!サキちゃん、テニスの審判みてぇ」
サクの傍に立った政宗くんがにっこり笑った。
そして。
「おー。亜季ちゃん。コジロー元気?」
「……ムサシ。気安く声をかけるな」
「なーに。俺と亜季ちゃんの仲じゃん」
「高校が一緒だったってだけだろ。貴様と仲が良かった記憶はない」
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