ふたり

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ふたり

付き合い始めて定番化したものがある。 同じ講義を受けるときは、隣に座る。 お昼はカフェテリアで一緒に食べる。 どちらかがバイトの時は、時間まで花見の公園に立ち寄って、手を繋いでベンチに座る。 「昨日ね、バイト先でシフト一緒の子に言われたんだ」 私はちょっと苦笑を漏らしながら、口を開いた。 桜の木は既に葉が青々と生い茂っていて、それもまた、生き生きとしていて気持ちがいいと思う。 「なんて?」 隣からの視線を感じながら、彼女の顔を思い出す。 「『咲ちゃん、顔が緩んでるよ』って」 「顔がゆるんでる?」 「うん。ふにゃーってしてるって笑ってた」 「“ふにゃ”?……俺は“ふにゃ”より“ふわふわ”だと思うけど」 「……どっちにしても、緩んでるね」 「ははっ、」 「奏ちゃんだって、最近はふにゃーってしてるんだよ。ちょっと前まで、なんかすごく悲しそうな顔するときがあったんだけどね。……ほら、この間噂になってた有名な人が彼氏で、髪がいつも派手な人と一緒にいる、」 バイト先の友人とその彼氏を一生懸命説明したけれど、サクは宙を眺めて首を傾げた。 「わかんない。……そもそも、今まで政宗以外、顔の認識があまりできてなかったし」 「……うん?」 「っていうか、人に興味なかったから」 「政宗くんの他にも周りにいつも人が居たのに?」 「あれは、あいつの周りに集まってたやつらで、俺もそのうちの端っこの一人だっただけ。あいつが俺のところに寄ってくるから、その中に巻き込まれてただけだよ」 確かに、サクは周りの人とは雰囲気も違ったし、いつも窓の外を眺めていたんだっけ。 今は私と居てくれる彼を、遠くからちらちら見つめていたのを思い出した。 頬杖ついて、窓の外を眺めてて。 私はその横顔と、彼の纏う雰囲気に惹かれたんだ。 「ふふっ、」 「ん?どうした?」 「ううん、なんでもないよ」 「なんでもなくない。……そんな顔して、」 「うん?」 不意に近づいて、見上げたタイミングで影になる。 唇が重なって、離れた先5センチ。 「ふわふわ可愛い顔、あんまり他のやつに見せないで」 覗き込むように見つめられて、一気に顔が熱くなった。 「ちゃんとバイト中は顔を引き締めて下さい」 「わ、わかりました」 「なら、よろしい」 そう言って、不意打ちでもう一回、チュッとする。 これは相当努力しないと、顔は引き締まらないと思った。
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