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ムーン・ドロップ
夜中に水を飲みに起きた由香は、コップから一口飲んで、カーテンを開けた。
───いい月夜だ。
時間も良かったのだろう。車の音もしない静寂に、月の光がピーンと張っていた。窓から手を出して指を踊らせれば、どんな楽器より美しい音色が聞けそうだ。
そういえば、クラスの女子の間で、ムーンストーンを身に付けるのが流行ったことがあった。願いごとが叶うというふれこみで一気に流行り、由香も欲しかったのだが、他にも欲しい物や食べたい物が多すぎた。第一、ムーンストーンは一応宝石だ。デザインや色味の良い物は、やはりそれなりに値が張った。
「みんな、なんで買えんの?」
と、尋ねれば、
「他を我慢したからだよ」
あんたが買えない理由はお見通し、とばかりに頭をパンパパーン!とはたかれてしまった。
「ひとの頭でリズム取んなよー」
返す言葉もない由香は、そんなことを言って、むくれた。
「ムーンストーン。月のしずく、か」
由香はふと、水の入ったコップを掲げた。まんまるい月の、真下にだ。
そのまま、じっとしていた。そして、
「んなワケないか」
こんな静かな夜には、誰に知られることなく、求める者に月のしずくがぽとん!なんてね。我ながら、ファンタジックなことを考えてしまった。
由香は残りの水を飲み干して、コップを洗い、ベッドに戻った。
眠りに落ちる寸前、ポチョーン……と、しずくの音がした。え? と思うとともに、眠りに包まれた。明日の朝には、音に一瞬期待したことなど、忘れていることだろう。
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