舞われ始めた風車の如く

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「っ」  そして、息を呑んだとともに、陽気な声が降ってくる。 「逃がさないっすよ〜」  霧という闇夜から現れたのは、帯刀を振りかざす着物姿の男だった。 「っ」  まさに振り下ろされる直前の動きに、心臓はびくつき、呼吸が止まってしまう。  半歩退こうとしたけど、足首に絡みついた何かに足の動きを阻止され、尻もちをついてしまう。そこで背中に回り込んだ何かの正体を知る。見た目は朝顔の花、その中心に大きな口を持つ人喰い花だ。大きくなると七寸を超えるけど、この子はまだ一寸程度で私の後ろでびくびくしてる。  ザッと草木を踏みしめる音が近くで落ちた。  ハッとして顔を上げると、帯刀をしまったさっきの男が静かに見下ろしている姿が飛び込む。  ほんのりとした赤髪に、朱色の瞳、着流しは黄色いその人は、私ではなく人喰い花を見下ろして、 「女の子の後ろに隠れるなんて、あんた、ろくな死に方しねーな」  凍てついた瞳で言い放った。  刹那、男の右手が閃くと、何かが脇をすり抜けて背中越しに悲鳴が轟いた。ガッと地面に突き刺さった帯刀を目にして、私は息を再びのんだ。閉まっていたはずの帯刀で射止めたのだ。  なんて早業。  恐怖と感心を孕んだ瞳で返していると、はらりと袖が切れて腕が顕になる。 「あら」  男の人は軽い調子で言うけれど、私は冷静にこの状況を受け止めることが出来ず、 「なっ…!何するんですかぁ〜〜〜?」  涙ぐんだ目でその人を睨んでいた。
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