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「追ってきませんね」
「霧を抜けたからだろーよ。あれ?追いかけてほしいんすか?」
「そんなわけ…!」
「じょーだんだってー」
この人は本当に人間らしくない程人をからかうのが好きみたい。
だけど、私を助けてくれたこと、それは変えられない事実で。悪い人じゃない、そう思えた。
「もお…」
何度もひやひやさせられたけど、怒るほどのことじゃない。安堵の気持ちが零れていた。
私の気も知らないその人は、さくさくと渇いた地面を踏みしめている。霧をぬけ、渇いた大地にたどり着いた私達は、遠くに見据える緑を目指してひたすら歩いていた。
草原にさしかかったところで、私の足は止まる。それを肩越しに認めた男の人の足も。
「あの、ありがとうございます。いろいろと」
「別に。成り行きこーなっただけ。あんた、行く宛は?」
そっぽを向いて、だけど体はこちらに向けて、その人は気にかけてくれた。気がないようで、面倒くさそうにしているようで、やっぱりいい人だ。
「そうですね、栄えた街に行きたいです」
「またどうして」
鼻で軽く笑った様を見て、私は口がごもってしまう。
「情報を集めたくて、その」
彼は、目が泳いでしまう私を一瞥して、ため息混じりに言う。
「どーも心配でなんねーんだけど。見た感じあんたは世間知らずの箱入り娘ってところだろー?」
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