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「は」
「え」
頬が完全に引きつった。きっと、傍らの男の人も。というか、今姫って!姫って言いましたよね?
混乱してきた頭を抱えたところで、美少女が何を指さしたのか、分かってしまった。
「お主、私にそのあやかしをくれまいか」
悪戯っぽく笑う美少女は、私の頭の上に乗っかる鎌鼬が見えている。
「ってまた!?」
ぶんぶん頭を振って振り下ろした鎌鼬は、さっきとはまた違う。ここは霧を抜けてあやかしの巣窟じゃないというのに、まただ。
あれ、身分の高い方にこの光景を見られたのって、まずいんじゃ…。
恐る恐るどこぞのお偉いさんに視線を滑らせる。美少女は、美少女は、少女のように目を煌めかせ、はしゃぐように声を上擦らせて飛び跳ねていた。
「あやかしに好かれるなど、良い、良いではないか!」
「良い、のですか?」
好奇な目、というより、子どもが面白いものを見つけた、そんな目だ。悪い意味ではない方。だから、私は一安心して、どうにか絞り出した笑みを向けていた。
刹那、ビュウウッと髪をかきあげる突風が訪れた。その場にいた者は皆、一様に辺りを見渡し、雲行きが怪しいことに気がついた。
霧の中では生温い風が頬を撫でていたのに、今はひんやりとした足早な風が吹いている。
草原が風に靡いてざわつき始め、髪を掻き乱す様はまるで、何かが迫ってくるようで。逸る気持ちがどくどくと心臓をうった。
と、男の人が導かれるように天を仰いだ。倣って顔を上げると、たちこめる雨雲、その中で何度も光る眩い閃光。
嵐が、やってくる。自然の壮大さに魅せられていると、男の人はから笑いを浮かべた。訝しげに見つめると、信じられないことを口にする。
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