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「あらら、風神に雷神までおいでましですか」
軽い口調で重い事実を口にする、その均等の取れない声色に、私の眉はますます寄せられる。けれど彼を怪しんでいる場合ではない。
風は強くなり、空は何度も花開くように煌めく。心地よい風、ともとれるけど、それはまだ嵐の核が遠いおかげ。出遅れてしまえば、命がもたない。
だというのに。
「すごい、すごいぞ!」
恐らく高貴なお方、の美少女は握りこぶしを胸の前に構え、ぱっちりなお目目を煌めかせている。逃げる、なんて言葉が頭の隅にでもあってくれれば幸いだ、と目を泳がせて思う。
とりあえず、まだ話の通じそうな通行人に状況確認をする。
「これってまずいんじゃ…」
通行人ではなく、赤毛のお兄さんは頭をかいている。やる気ない感じ。
「しゃあない。邸宅に戻りますか。ほら走った走った」
背中を押されて、風向きにそった方角へ駆け出す。美少女は無理矢理手を引かれている。この足じゃ、一雨は降られそう。などと心配の色を浮かべていると、鳴子が鼓膜を刺激した。
それを使う時は確か、馬というものを呼ぶためだったはず。数分して、男の人の足は止まった。馬が来ないに違いない、とほくそ笑んでいた私は次の瞬間ぎょっとする。
力強い足踏みと共に心地よい嘶きが聞こえ、四本足の鬣をもった生き物が現れたのだ。
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