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「あんたが代わりに姫と乗りな」
一頭につき乗れるのは二人らしい。男の人は美少女を先に馬へ乗せると、私に手を伸ばしてきた。
「え…私はその」
「どうかしたのか」
平然と馬に跨って見下ろしてくる美少女を、直視できない。だって、だって私より幼いはずの子でもできることを、私は…。
「う、馬を見るのは初めてで…ましてや乗ったことなんて」
言葉にすると益々恥ずかしさが増す。熱くなる頬を押さえていると、潔の良い澄み切った笑いが巻き起こった。
「あっはっはっは!馬を見た事がない?世間知らずにも程があるぞ!」
くり目で見下ろす美少女は愉快そうにはしている。けど、哀れみや皮肉、虐げは瞳に宿していなかった。ちゃんと、人間を見る目だ。
美少女は何か言いかけては、うーんと唸る。上手く言葉が出ないのか思案している様子だ。と、吹っ切れたように私を不敵な笑みで見据える。
「名がないと呼びにくいな。よし、私がつけてやろう」
あ、そんなことだったんだ。一応、目上の人だろうから敬語でそのことを言っておこう。
「名前くらいありますけど…」
せっかく村を出たんだから、心機一転のいい機会として、名前をもらおう!私は期待を満面に載せた瞳で返した。
「どんな名前でしょうか!」
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