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「こんなに風が吹いているのに?」
「風速で考えれば柔いものでしょ」
今にも豪雨に見舞われそうなのに、と不安を空に向ける。そこには曇天が聳え、けれどあの重厚感はない。軽い、雨雲のようだ。
案外矢丞さんは適当なことを言ってるようで物事の見極めが人より優れているのかもしれない。感心の眼差しを淡々と馬と並走する彼に向ける。その視界に栗色の髪が割って入ってくる。
「猫止まれ!私は見てみたい!」
「嫌っすよ、めんどくさい」
「む…またそれか。つまらん男よ。お主はどうだ?私に賛成だろう?」
この二人の関係って。
あれ、そういえばさっき、邸宅に行くとかそんな事を。それじゃあ私って。
身を乗り出す桃姫を正位置に戻し、尋ねる。
「あの、一つお聞きしておきたいのですが」
「なんだ」
ぱっちりなお目目が鋭く光った。容姿は可愛くて整っているけれど、その目つきはきつい。それでも、美少女に変わりないけれど。その美少女は威厳のある顔つきで私を見ていた。ここははっきり言っておかなくては。
「私もお邪魔していいのですか?その、こうしてあやかしに追われる身ですし、迷惑が」
「馬鹿か、お前」
「うええ!?」
口篭りそうになった私を、彼女は容易く一掃した。困惑する私に向き直り、力強い眼差しで言いつける。
「私が招いたのだぞ、お前は今日から私の世話役だ、いいな?」
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