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「それは、」
姫様の世話役。とんでもないことを平然と言うんだから、姫って怖い。それに彼女はまだ私の言い分を理解していない。ここで、そう簡単に了承はできない。
何かこの強情そうな美少女を納得させられる口実はないかと、思考を巡らせる。その答えが導き出される前に、口を開いたのは矢丞さんだった。
「姫。この子は光鳥瀨の領地の者じゃないんだから、それはあんまりじゃない?」
「ならば迎え入れることは叶わぬな」
ぷいっと背を向ける。それに付け込まずにはいられないのが、彼である。
「いいのー?」
意地の悪い声色は桃姫にしっかり届いている。
「………」
耳をそばたて、揺れている。そこにとどめをさすのが、矢丞さんは好きなのだろう。
「手放して」
男の人は声色の使い分けが女の人より下手と聞いていたけど、そうでもないらしい。巧みな揺らしに、桃姫は完敗だ。
先程までの余裕と威厳を捨て去り、矢丞さんに牙を向いている。
「お前がそのように言ったのだろう!?」
「それはあんまり、って言っただーけ。互いの利にかなう取引、人の上に立つのならその点もしっかり身につけないとね〜」
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