外の世界の姫

6/19

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
 それから数日、桃姫とは顔を合わせる程度でろくに会話をするゆとりもなかった。  桃姫の日課は常に慌ただしく、私語を口にすることを許されていない。そのほとんどの時間を、教育係の有津乃中宮様と共にしている。  矢丞さんはというと、意外にも朝は早起きをしどこかに出かけている。自室に戻ったかと思うと、光の速さで眠りにつく。  邸宅へお邪魔させてもらえたのは幸運だったとはいえ、私はあくまで桃姫の客人で、邸宅の外へ出ることはできず、無情に過ぎ去る時が憎らしかった。そんなある日のことだった。いつぶりかに聞いた、お嬢様口調で自信に満ち溢れたあの声が私を呼んだ。 「漆猫!」  逸る気持ちを抑えてゆるりと振り返った私は、顔色のいい桃姫を認めると表情にパッと花が咲いた。 「お勤めご苦労様です!桃姫」  時折見かけた桃姫の顔色はいつも暗く、私の存在を認めようともしなかった。けれど、今は違う。出会った時のように、自信を持っていて揺るがない瞳に力が宿っている。その姿を見ただけで、私の心はこんなにも軽くなるなんて。  そんなことを胸の内に秘めていると、不意に手を取られる。 「ついて参れ」 「?」  桃姫が颯爽と私の手を引き、中庭に引きずり込む。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加