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こうして見るとよく整備された庭園だ。その大きさも、一間や二間などくだらないほど。簡素な部屋とは違い、そこは色とりどりの、見飽きることなどない嗜好に溢れている。
「よい庭園であろう。こっちだ」
感心の目を向けていることに気づいていた桃姫がそういい、私の口角は上がる。桃姫は、とても繊細な方だ。感性の豊かな人は、嫌いじゃない。
私は足早に駆け出した桃姫に合わせてその行き先を急いだ。
そしてたどり着いたのは、一家の腹の虫を抑えられるだけの量の野菜畑だった。
「これは…もしや桃姫がこれを!?」
「その通りだ。お主も手伝うのだ」
「はい!」
土の香りを鼻に擽らせながら、私は手入れをし、桃姫の指示に従って世話を続けた。水遣りをしていると、ふと問いかけがやってくる。
「ところでお主はいくつなのだ?」
「十七になります」
「ほう、では裳着は終えたのか」
その時、屋根の上で私達を見下ろしていた矢丞さんが、目を見開いたことを、私は知らなかった。
その意味を知らず、私は桃姫と言葉を交わす。
「もぎ…とは?」
「本当に無知だな。公家の女子が成人したしるしに初めて裳をつける儀式のことだ」
一息ついて、瞳に影を落として、彼女は言う。
「私は翌年に控えている」
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