外の世界の姫

9/19
前へ
/62ページ
次へ
「一回で乗れておいて何を言っておる。さ、やるぞ」 「弓も打てないんですけど」 「猫。教えてやれ」 「はいよー。漆猫こっちこいこい」  手招きされて、渋々彼の元へ歩み寄ると何かを投げ渡された。 「足を開いて、これ持って」  弓を左膝に、右手を弦にかけ、構えの位置を矢丞さんを見てとる。そのまま矢丞さんの動きを見様見真似でとり、ぎりりと弦がうなる。ていうかぷるぷる二の腕が震えてる! 「胸を張って」 「はい」  熱い。ピンっと張ったその時が、今だと思った。すっ…とごく自然に指から離れていく矢の筈の感覚。見据えた先には、的などない。  しまった、姿勢に気を取られて標的を見てなかった!ガっと樹木に突き刺さった矢を見てほっと胸を撫で下ろすも、どくどくと波打つ余韻は変わらない。弓を打つ感覚は、なんて清々しいんだろう。 「へぇ、上出来じゃないすか。どう?姫、漆猫の腕前は」 「何を言う!的にあたってすらいないではないか」 「見てなかったんすかー?真っ直ぐ、寸分狂わず飛んだ。綺麗でしたよ」 「あ、ありがとうございます…!」  こんな熱い気持ちは初めてで、まだ胸の高まりを感じる。馬に乗るだけではなく、弓矢も放てた。自分の中で成長を感じ、清々しく心地がいい。何かを恐れて挑戦することに躊躇する。そんな私に、彼女達は機会を与えてくれた。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加