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「一回で乗れておいて何を言っておる。さ、やるぞ」
「弓も打てないんですけど」
「猫。教えてやれ」
「はいよー。漆猫こっちこいこい」
手招きされて、渋々彼の元へ歩み寄ると何かを投げ渡された。
「足を開いて、これ持って」
弓を左膝に、右手を弦にかけ、構えの位置を矢丞さんを見てとる。そのまま矢丞さんの動きを見様見真似でとり、ぎりりと弦がうなる。ていうかぷるぷる二の腕が震えてる!
「胸を張って」
「はい」
熱い。ピンっと張ったその時が、今だと思った。すっ…とごく自然に指から離れていく矢の筈の感覚。見据えた先には、的などない。
しまった、姿勢に気を取られて標的を見てなかった!ガっと樹木に突き刺さった矢を見てほっと胸を撫で下ろすも、どくどくと波打つ余韻は変わらない。弓を打つ感覚は、なんて清々しいんだろう。
「へぇ、上出来じゃないすか。どう?姫、漆猫の腕前は」
「何を言う!的にあたってすらいないではないか」
「見てなかったんすかー?真っ直ぐ、寸分狂わず飛んだ。綺麗でしたよ」
「あ、ありがとうございます…!」
こんな熱い気持ちは初めてで、まだ胸の高まりを感じる。馬に乗るだけではなく、弓矢も放てた。自分の中で成長を感じ、清々しく心地がいい。何かを恐れて挑戦することに躊躇する。そんな私に、彼女達は機会を与えてくれた。
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