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「猫が言っておったのを聞いたのだ。なぁ、本当はお主、どこの出だ?さぞかし優秀な家系であろう」
「ま、まさか。私はただ…」
言葉が、途切れた。喉に引っかかって上手く出てこない。
桃姫は私が旅の者ではなく、どこかの貴族と思っている。だとしても、名のある貴族が一人であんなところに、しかもあやかしに好かれているなんて可笑しい。気味悪がっても、可笑しくない。貴族だから、そんな言葉で何もかも解決するのなら、まだ生きやすいのかもしれない。だけど、もし貴族になれたとしても、私は。
「ただ、まだ死にたくないだけで」
気づいたら、そんな言葉が出ていた。
「死ぬ?おかしな事を言うな。良家にいる限り戦に巻き込まれることはない。むしろどこよりも安全であろう」
「戦?」
「なんだそんなことも知らんのか」
彼女と会話を交わすほど、己の無知さを思い知らされる。
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