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「…」
少しの間、考えこんでいると、馬がそわそわしはじめ、思考は中断された。
馬から降りるのも一苦労で、半ば矢丞さんに抱えられながら漸く地面を踏みしめた。それを見て桃姫は愉快そうにしていたが、矢丞さんはそれを許さない。何故なら、彼女もかつては私のように初めてのことに臆病だったらしいから。当然その事を指摘された途端、桃姫の強烈な平手打ちが炸裂した。
そのやり取りを見守った後、私は与えられた自室で悶々と考え込んでいた。
村を出て数日。予め予習していた事柄は尽く的を外れ、私は未だに馴染めずにいた。村の理だけがすべてだった私にとって、外の世界で起きている実情は計り知れない。
けれど、不安と焦りを持つ私を支えているのが、桃姫という存在だ。彼女は臆病で無知な私に何ら嫌気もさすことなく、受け入れてくれてる。姫、という立場でありながら、余所者の私をいつも気にかけてくれてる。
「何か、恩返しがしたいな…」
ぽっかりと空いた三日月に、その声は吸い込まれていった。
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