外の世界の姫

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 やはりここの人の朝は早い。普通、陽射しを受けて起床するものだと思っていたのに、皆各々陽射しが迎える前に仕事を終わらせているという。そして、朝餉を終えた後、桃姫はいつものように決められた縦割り方式の用事を済ませる。  有津乃中宮様は桃姫専属の教育係で、曲がったことは嫌いで何事も決められた通りにこなさないと気が済まない質、と専ら噂の女性である。  どう見ても、桃姫との相性は最悪だ。  その日の桃姫はいつもより苛立って見えた。そして事件は起きた。  花と書かれたお手本を横目に、筆を握る桃姫の右手はぷるぷると震えている。力を込めすぎて隅が一箇所に滲み、動かない。  眉を潜めた有津乃中宮が口を開きかけたその時、ボキッ───と、歪な音がその場に棘のある静寂をもたらした。桃姫の手元には真っ二つに折れた筆が一つ、無造作に転がっている。  長い髪を緩く縛っていても、横髪はたらりと落ち、桃姫の表情を隠してしまう。けれど有津乃中宮にそんなことは毛ほどどうでもいいこと。切れ長の瞳を隠し、淡々と告げる。 「はぁ…新しい筆をここへ」 「もうよい!!」  侍女を介入される暇も与えず、怒り狂うように彼女は叫んでいた。体の震えは、おさまらない。  彼女がこうも感情を乱したことは、少なくとも教育係は知らない。突然のことに暫し動揺したが、平静を装って声をかけようとする。 「姫様、」  しかし、その声は当の本人には届かない。瞳に影を宿し、静かにその場を後にした。そして、彼女は罰が悪そうに気づいた。 「漆猫…」  私が、盗み聞きしていたことに。
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