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「姫様!」「姫様」
その中で一際冷静にこちらを見据え歩み寄るのは、有津乃中宮様だ。向き合う形で一定の距離をとった彼女は、やはり淡々とした口調で告げる。
「立場を弁えた行動を心がけるよう、あれほど申したというのに、貴方という方は。今後の外出は一切認めません、よいですね?それから」
と、静かな敵意を宿し、私を捉える。
「貴殿は客人という扱い。姫様を誑かすこのような行為、今回は特別に目を瞑りましょう。ですが次はありません」
それまで一切の感情を表にしなかった彼女が、腹の中でほくそ笑んでいる、ような気がした。だって、微かだけど、口元が妖しく歪んだのだから。
声色一つ変わらないけれど、滲み出る悪意はどんなに巧妙な手を使っても隠せない。そういう人なのだと、この時確信してしまった。
今一度覚悟を決め、私は敵意に対して敵意をもって返す。
「有津乃中宮様は、桃姫の特技をご存知ですか」
「特技、ですか。そうですね…」
有津乃中宮の視線が泳ぐ。その先で、侍女達がくすくすと口元を隠して肩を震わせている。それが、人を嘲け笑い貶める音であることは明白。堪らず、対峙する彼女を睨みあげた。彼女はあくまで、趣味を聞かれたかのように愉快げに答える。
「ある意味で、人を魅了すること、でしょうか」
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