外の世界の姫

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 月光が差し込む一室で、私は先程別れ際に言われたことが気にかかっていた。  桃姫はあの場を去ると、私の部屋に少しの間閉じこもっていた。見兼ねた私が堪らず謝ると、怒られた。むしろ、感謝をしたいと言われ、少し困惑した。あれで、よかったのだろうか。  とりあえず、また有津乃中宮と向き合ってみると彼女は言った。それまで私は教育を受けている間は干渉してはいけないとのこと。私がいたらまた、今日のように逃げてしまいそうだから、だそうだ。  やっぱり良かったのか悪かったのか曖昧なところ。だけど、桃姫は怒ってはいなかった。むしろ感謝する。そこだけを見れば良かった方なのかもしれない。  しかし困った。桃姫がいなければ私はただの暇人である。  ふと、月夜を見上げる。 「街を見てみたい…。だけど、姫様を連れ出す訳にはいかないし、私だけで抜け出しちゃおう」  結局、約束を守らない決断が下り、私は夢の中へ落ちていった。  次の日、私は決行に成功していた。建物や牢からの脱出は昔からお手の物だったおかげで誰にも気づかれることなく屋敷を後にした。もちろん、馬は連れていない。そもそも桃姫が一緒でないのなら、自分の足があるのだから使う必要はない。馬はとっても繊細で扱いに精神が削られる。  草原を疾走する私は漸く近づいてきた手当のものを見上げた。  桃姫の邸宅からも見えた塔は織紫(おりし)楼閣と言うらしく、その近辺には寺があり、集落もあって賑わっていた。
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