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漆猫という人間
織紫楼閣は五重にもなる塔で、黒と赤を基調とした作りで、まだ新しい。あのてっぺんに登りたくなり、近辺でそわそわした様子の老人を捕まえ、尋ねた。とりあえず、
「これは誰のものですか?」
所有者に許可を得るために。
老人は白衣に紫色の袴を召している、白髪が似合う人の良さそうな方だった。その人柄の良さそうな外見通り、親切にも教えてくれる。
「あぁ、この光鳥瀬の地を治める桃姫の誕生を祝ったものだよ」
「え…治める…領主ってこと?」
驚きのあまり敬語はどこへやら。老人は気にしてないようで平然と問いかけてくる。
「桃姫を知らないのかね」
領主を知らないってとんでもないこと。素直には言えない…。ここは知らなくて仕方ないという設定で行こう。
「あー、最近ここに流れ着いた者で…勉強中ってところで」
苦し紛れの言い訳に自笑してしまう。老人は和やかな目を伏せたまま続ける。
「いちど挨拶に行くといい。とても美しく気高くお優しい方だ。ご両親をなくされてまだ幼いというのに、大したものですわ」
気持ちのいいぐらいいい人で、私も自然と緊張がとれ、体が軽くなる。
「ありがとうございます。いろいろ教えてくださり。ここで何をしていたんですか?」
「あぁ。たびのお方はご存知ないかね?近頃怪異が頻発していて、困っているのですよ。そこで、東方の腕利きの陰陽師を呼んで、待っているところですわ」
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