漆猫という人間

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「陰陽師…」  と、いうことは。ここにあやかしがいることを意味する。付かれる前にとんずらこいたほうがいいようです。私はあからさまに焦り、そそくさと老人にお辞儀をする。 「そうなんですか!早くお会いできるといいですね!それじゃ、失礼します!」  そして背を向け、顔を上げたところで作り笑顔は消え失せた。私より作り笑顔が上手い人が目の前にいたからだ。 「へぇ、綺麗な方ですね。そんな足早に去らなくても、俺に挨拶もないの?」  一見それは、物腰柔らかな美青年ともとれる。けれど、その作り笑顔は紛い物。一気に信用をなくす。浮世離れした白銀の短髪は驚くほどさらさらで、青い瞳は澄んではいても冷めている。幼く見えるからか美少年のような青年だ。しかも身なりが大変よろしく、全身白で纏められている。白に相当の拘りがあると見た。  どうでもいいか。  目線さえ合わせず、口をへの字にして、不機嫌であることを主張していると、砂利の音が近づいてきた。 「おお、よくぞおいでくださいました。私はこの塔を管理する内野(うつの)と申します。ささ、七楽殿、こちらへ」  私とは違って歓迎の様子を見せた老人を青年は確かに一瞥した。なのに、その視線はまた私に向けられた。  これは、めんどくさいことになりそう。まるで悪戯をしてしらを切る子どものような態度でそっぽを向く私に、青年は躊躇なく話しかける。
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